知林ヶ島の風 冨山育世 入選
知林ヶ島の風
”指宿の海守ろう隊が海岸清掃のため多良浜海岸に集まっている。
海岸清掃を始めて三年、指宿の海岸でもウミガメの産卵が見られるようになってきました。
主催者「」では皆さん今日はきれいな海岸作りの為によろしくお願いします。
みなゴミ袋を持ちゴミ拾いに取りかかる。
辰吾「ビンのかけらがけっこうあるね」
大輔「それシーガラスっていうんだよ、小学校の時この海岸でたくさん集めて、夏休みの宿題で工作作ったよ」
隆佑、シーガラスを手に取り、「へえー、結構きれいなもんだね」
健一「今日は大潮だね、砂州ができてるよ、」
辰吾「砂州のほうもゴミ拾わないとね。観光客もたくさんきてくれるからね」
隆佑背伸びし、両手を広げ「恋下めばえる知林ヶ島、愛を確かめ合う知林ヶ島、我がふるさと知林ヶ島」と叫ぶ
辰吾、大輔、健一は隆佑はあきれ顔。
砂州で写真を撮っている女性2人。
辰吾、大輔をつつき「『シャッター押しましょうか』って言えば?」
大輔「え〜」と言いながら「あの〜、シャッター押しましょうか」
綾「良いんですか、じゃお願いします」
綾はカメラを大輔に渡し、奈知のところに行き並ぶ。
大輔がカメラを構えると綾と奈知はずんずん後に下がっていく。大輔はカメラを構えたまま二歩三歩前へ。
すると二人はまたうしろへ。
大輔「あの〜 止まってくれませんか?小さくしかうつらないんですよ」
奈知「私たちは小さくていいんです、この砂の道をうつしてください」
大輔「え、砂を映すんですか?わかりました、ではとりますよ」
綾と奈知 大輔のもとへ。大輔カメラを返す。
綾「ありがとうございました」
そこへ皆集まり
辰吾「観光ですか?」
綾「まあ、そんなもんです。大阪からです。」
隆佑「今夜は指宿に泊まりですか?」
奈知「はい、その予定です」
辰吾「夜、ホタル見に行きませんか?」
健一「おいおい、突然に!」
綾「指宿でホタル見られるところあるんですか?」
奈知「え〜行くの?あぶなくない?ホタルは口実かもよ」
男全員「指宿の海に誓って私たちは絶対あぶない事いたしません」
女性二人笑う。「ではお願いします。ホテル見に行きましょう。」
夕方落ち合い 車でホタルがいる池田湖の棚田へ。
車の中で
隆佑「二人とも大阪人なのに関西弁ないね?」
奈知「私たち二人共親が鹿児島県人なんです、鹿児島弁もわかるし関西の人とは関西弁でしゃべるし関西弁と鹿児島弁のバイリンガルってとこね」
綾「なにそれ!」
綾が奈知をつっつく。皆笑う!
奈知「綾のお母さんは指宿の人よ。おじいちゃん、おばあちゃんや親戚の人 指宿にいるのよね。」
綾「小さい頃何度か指宿に来てるんですよ、今回は何年ぶりかなあ、お母さんも帰りたいんだろうけどな(小さくつぶやく)」
棚田へ着きホタルを待つ。大輔と綾並んで土手にすわっている。
綾「私のお母さんね 二年前倒れて今 車椅子での生活なの。病院の先生は頑張ってリハビリすれば歩けるようになるって言ってくれてるんだけど、お母さんすっかり気落ちしてしまってリハビリしようとしないの。それでね、指宿の風景見たら元気になってやる気も出してくれるかなと思って今回私たちだけで指宿に来て指宿の風をお母さんに伝えようと思って。」
大輔「そうだったんだ、指宿の風お母さんに届けられるといいね。ここにすんでいる人はここが生活の場だから生活するために一生懸命だけど、指宿を出て遠くに住んでいる人はここがふるさとであり、そしていつまでもなつかしいところであってほしいよな。」
「最近思うんだけど 都会には都会の田舎には田舎の役割があると思うんだよね田舎が都会のまねをする必要はない、田舎の良さを守り次の世代へ引き継いでいく事も必要なんだよな。ホタルもウミガメもみんなの努力で指宿にかえってきてくれているんだからね、砂の道の知林ヶ島もいろんな計画があるみたいだけどなるべく自然を残して整備されればと思っいてるんだ。お母さんにも指宿のこといっぱい話してあげて」
綾「ええ、そうします。お母さんのふるさと 私も好きよ明日はじいちゃん家のオクラのお手伝いをする予定なんです、オクラも大好き」
ホタルが出て来てみんなで楽しんだりうっとり眺めたり
綾「あ母さんにも見せてあげたいな」
綾と奈知は指宿の風景をたくさんカメラにおさめ大阪へ帰る。
しばらく後大輔へ綾からメール
(指宿ではお世話になりました。お母さんといっぱい指宿の話しをしました。とても懐かしがっていました。少し元気になったような気がします。)
綾へ大輔からメール
(メールありがとう お母さんの喜ぶ顔が目に見えるようです。先日指宿の海でウミガメの足跡発見。子カメ誕生を近いうち見られるかも)
7月
大輔へ綾からメール
(ごぶさたです お母さんが少しずつですがリハビリ始めました)
8月
大輔へ綾からメール
(お盆に家族で指宿に帰省します。リハビリ順調ですがまだ車椅子が手放せません。砂州わたるの無理ですね。)
綾へ大輔からメール
(車椅子でも大丈夫ですよ、応援隊が大勢いますから。)
お盆 綾の家族と応援隊 多良浜へ
車椅子を台座に乗せる。お母さんは車椅子の座っている。
お母さん
「すみませんね 重いでしょう?」
応援隊
「大丈夫ですよ」
お母さん
「なつかしいね、海のにおい、昔と変わらない。小さい頃ここで潮干狩りしたり貝殻拾いもしたのよ。海水浴も。クラゲがいたりして楽しかったな」
綾
「お母さん 大輔さんたちがお母さんのふるさとを守ってくれているのよ。海も自然も。だからお母さんのふるさとはいつまでも変わらない。いつ帰って来てもなつかしいのね」
お母さん
「綾、お母さんリハビリ頑張るね。今度は自分の足でこの砂の上を歩きたい」
綾、大輔 向き合いほほえむ
辰吾「ねえ綾さん、奈知さん 元気ですか?」
綾「はい、元気ですよ、彼女ね 秋に結婚するんです それで今準備中で大忙しみたいです、新婚旅行 指宿かもしれませんね」
辰吾、隆佑、健一「ショック〜」落ち込む
綾
「私、お母さんのふるさとでお嫁さんになろうかな」
綾、貝殻を探す
綾「お母さん 桜貝よ きれい」
貝殻をお母さんに渡す。
お母さん
「あ〜、知林ヶ島の風が吹いてる、ふるさとのか香りよ」
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