映画「砂の道」第3章 祥と純
13
忍15歳、祥26歳。
ドブ川の小料理屋いさむ
料理人の勇とその妻まさこが忙しく働くいている。裏口から入っていくと忍の姉、祥がお盆に空のビール瓶を乗せてカウンターに置く。まさこが受け取る。
裏口から入ってくる健太と忍
忍
こんばんはあ。
勇
お、今だったかいばかップル。
まさこ
何言ってんの。この2人は純情可憐な恋人さ、そういうのとは違うんだよ。
忍
まさこさんサンキュー。
健太
お邪魔します。
祥
今日は早かったのね。勇さんすみません、いつも。
勇
良いの良いの。さっちゃんの妹夫婦だもん。
まさこ
こら、また。(みんな笑う。)
カウンターの端っこで夕飯を食べる2人。
健太、忍
ご馳走さまでした。ありがとうございました。
14
ドブ川通りを歩く2人。昼間の明るさがまだのこる通りは人通りが少なく、少しづつ夜の女性たちがきらびやかな衣服に派手な化粧で自分の店に急いでいる。時々挨拶する忍と健太。女が近ずく。
女 色っぽい30歳くらいの女性
あんたたちいつも、一緒ねえ。忍ちゃん色気が出てきて綺麗になったわね〜。
健太がまた、かっこよくなっちゃって。そろそろ私のお店にも来てよね。
忍
こらこら、あたしたちまだ中学生ですから。でもありがとね。ウフっ。
健太
俺ちょっとは飲めるけど。今度おねがいしまあす。
忍 少し怒りながら。
ばかたれ、行くよ。なによあんな年増。こんな若い可愛い子連れてるのにデレデレして、全く男ってのは。
15
少し色が浅い画面に切り替わり、雨の中突然車が横切る。激しいブレーキの音、救急車のサイレン。倒れた男の足、散らばる楽譜、ギターケースが飛び中からギターが飛び出す。
16
ギターの前で楽譜を書いている男、毅。松葉杖が玄関に置いてある。
忍
ただいまあ、今だったあ。毅くん これ夕飯、今日は煮魚だった。美味しかったよう。
健太
忍、お父さんだろ、まったく、毅くんって。
忍
だって。この呼び方お母さんがしてたから好きなんだ。
健太
だからって、お前が。
父
良いんだよ健太、忍の寂しさがそれで紛わされれば。笑いながら。
忍
健太、ありがとね、いつも送ってもらって。じゃまた明日。
健太、手を振りながら遠ざかる。
17
帰り道、煌々と灯りがついている前園経理事務所。窓に健太の母、八重子の顔。
見上げながら家路を急ぐ健太。腕時計を見る、7時42分を指している。
机に座って本を読む健太
玄関が開いて八重子が帰ってくる。
八重子
ただいま
健太
おかえり、母さん。
八重子
今日もさっちゃんとこで夕飯ご馳走になったの?悪いねえ、いつもいつも。
今の時期お母さんの会社は忙しくてなかなか定時に帰れないから、すまないねえ、あんたも忍ちゃんちにも。
健太
うん、そうだよね、でもありがたく頂きました、笑う。
八重子
今度の休み、忍ちゃんちの人たち呼んできて、焼肉、ご馳走しよう。
健太
良いねえ、笑う
コメント