映画「砂の道」 全編
映画 「砂の道」…
第1章 イントロダクション
1
小学2年生のクラス。先生さようなら、の声が元気よく聞こえ、先頭を走って飛び出してきた女の子。小雨が降っている。右手に傘を持つて、左手は飛行機の翼のようにしながら走ってくる。後ろからたくさんの子供達。
元気に走ってる女の子、校門を出たところで一瞬見えなくなる。大勢の中から1人の男の子が駆け出す。門を出たところですべって泥だらけで、膝をすりむいた女の子。傘も飛んでる。男の子、赤い傘を拾って女の子に渡し、女の子をおんぶする。泣いていた女の子ヒクヒク言いながら泣き止む。雨の中女の子をおんぶした男の子が歩く。女の子男の子に耳打ちする、
「お嫁さんにしてくれる?」男の子、少し考えてから、大きくうなづく。カメラは上からの引きになり、校門、雨赤い傘、街並みを写す。雨の音が画面を覆い尽くす。
2
女の子の家。お母さんが病院から帰って来ている。忍、傘を置き、走って行ってお母さんに抱きつく。
父毅
こらこら、しーちゃんお母さん、きついからやめなさい。
母瞳
毅くん、大丈夫よ。お母さんさっちゃんとしーちゃんに会うと元気が出てきて病気を忘れる。笑う。
忍
ほうら、お父さん、だってえ、ねえ、お母さん。
母の隣に座っている姉祥、優しく微笑む。
祥
お母さんが病院にいるから忍、甘えられないんだもん、今日くらい良いんじゃない?
父毅
そうだなあ、忍も寂しいけどお母さんだってそうかもなあ。
3
忍の家の前に、忌の文字、黒い服の弔問客が入っていく。
しょんぼり祥と毅に肩を抱かれ、葬儀、遺影の下に座る忍。
門のところに健太。駆け降りて行く忍。忍の肩を抱く健太。泣き尽くす忍。
4
小学生四年生。おわかれ遠足。
手前に歩いている2人。遠くにクラスの子供たちと先生。
リュックを背負った2人嬉しそうに歩いている。
しゃがんで何か探している忍と、健太
忍小さな薄い色の桜貝を手に健太に向かって走る忍
健太、桜貝で小さな指輪を作る。
健太、忍の左手薬指にはめてあげる。手のアップ。忍の笑顔。
冗談交じりに忍は、結婚式は洋式で、白水館と言うと、健太は俺、じゃあ稼ぐな、と言った。この砂の道をバージンロードにしたい、とおませな忍。
5
タイトルバック
青空、砂の道 知林ヶ島と砂の道が引きで入る。
忍と健太の笑顔でFO(フェイドアウト)
第2章 若草の頃
6
隣のクラスからバタバタと入ってくる女の子、忍。南指宿中。
2年1組の表札
健太の机の前に後ろ向きに座り、理科のノートを広げる。
忍
健太あ、ここわかんない、教えて。
健太
ここか、ここはこうだろう、こうでこうだよ。
忍
ありがと、健太、あったまいい。ここ宿題でさ、わかんなかったんだよ。
健太 笑っている。
忍
なんでも言いな。俺、できることはなんでもするから。
忍 かぶりを振って、笑顔
今日家に行って良い?
健太
ああ、良いよ。
7
チャイムが鳴り、次の授業の先生が入ってくる。
先生
上原さん、中村君を大好きなのは良いけど自分のクラスで勉強しなさいね。
一同どっと笑う。
忍
はあい、頭をかきながら出て行く。
健太と忍、右手を小さく振り合いながら笑顔。
8
次の日
登校時
赤いレクサスが走ってくる、中に長い黒髪の少女と母らしい運転する女性。
侑
お母さん ここで良いよ。校門まで入ると恥ずかしいよ。
母加奈子
だってまず手続きやご挨拶やあるし。
侑
お母さんは事務室に行ってよ。私歩いていく。
車から降りて歩き始める侑。たちまち登校する中学生の注目の的になる。
猫背でヒョコヒョコ歩く健太の横を急ぎ足で通り過ぎていく侑。ちらっと長身の健太を見る侑。髪がなびく。
9
健太の教室。
先生と一緒に立っている侑。長身。
先生
伊藤侑さんはお父さんの仕事の都合で、半年だけお母さんのふるさと指宿で暮らすことになり、南中でみなさんと一緒に勉強します。仲良くね。
侑
伊藤侑です。短い間ですがどうぞよろしくお願いします。
拍手 こそこそ、話す男子、女子。
先生
伊藤さんは先月までアメリカにいたので英語が堪能だそうです。本場の英語に触れる良い機会ですね。
子供たち おおおおお。
じっと健太を見つめる侑。健太の前の席が空いている。
侑
先生あの席は空いてるんですか?
先生
ああ、空いてるよ。先月、転校した子の席だから。
侑
じゃあ私あそこに ( 言いながらつかつか、歩いて行き)、健太によろしくね、と言いながら座ってしまった。
健太 はあ。
うしろの祐二が健太の背中を突く。振り返った健太。ニヤニヤしている。祐二もニヤニヤ。
10
次の休み時間
いつものように健太のクラスに来た忍。健太の前に美女が座ってるのを見て愕然として、床に座り込む。みんな気を使って知らん顔をしている。
席に行き、健太を引っ張っていく、忍。
忍
わかってるね。健太
健太
あ、うん。何が?
忍
あんな美人が前に座ったら嬉しいでしょ。
健太
いや、ぜんぜん、忍の方が可愛いよ。
忍健太の腕を掴み、教室から外に出て、人気(ひとけ)のないところに来ると、突然抱きしめる忍。忍と健太の顔が交差する。
慌てる健太。
忍、にこやかに笑いながら、頭が交差したまま
忍
愛してるよ健太
健太忍を見つめる
11
下校する帰宅部の健太の後を歩く侑、少し早足になり、健太に追いつく。
侑
あの、私、前に座った伊藤侑です、
健太
あ、ああ、よろしく。
転校、初めてなんで、戸惑ってしまって
健太
すぐ慣れるよ。俺もそうだったから。
侑
あ、健太さんも?
健太
そう、東京に居たんだけど、両親が離婚して、おふくろの故郷の指宿に帰ってきた。
親父は東京にいるけど、もう別の家族がいるんだ。
話しながら歩く侑と健太
バレー部に行く途中2人を寂しそうに見つめる忍。
12
半年後、父のいる東京に行くことになった侑と母
リムジンバス乗降口の前に見送りの2年1組の生徒と先生。
健太を見つめる侑。バスが走り出す。
第3章 祥と純
13
忍15歳、祥26歳。
ドブ川の小料理屋いさむ
料理人の勇とその妻まさこが忙しく働くいている。裏口から入っていくと忍の姉、祥がお盆に空のビール瓶を乗せてカウンターに置く。まさこが受け取る。
裏口から入ってくる健太と忍
忍
こんばんはあ。
勇
お、今だったかいばかップル。
まさこ
何言ってんの。この2人は純情可憐な恋人さ、そういうのとは違うんだよ。
忍
まさこさんサンキュー。
健太
お邪魔します。
祥
今日は早かったのね。勇さんすみません、いつも。
勇
良いの良いの。さっちゃんの妹夫婦だもん。
まさこ
こら、また。(みんな笑う。)
カウンターの端っこで夕飯を食べる2人。
健太、忍
ご馳走さまでした。ありがとうございました。
14
ドブ川通りを歩く2人。昼間の明るさがまだのこる通りは人通りが少なく、少しづつ夜の女性たちがきらびやかな衣服に派手な化粧で自分の店に急いでいる。時々挨拶する忍と健太。女が近ずく。
女 色っぽい30歳くらいの女性
あんたたちいつも、一緒ねえ。忍ちゃん色気が出てきて綺麗になったわね〜。
健太がまた、かっこよくなっちゃって。そろそろ私のお店にも来てよね。
忍
こらこら、あたしたちまだ中学生ですから。でもありがとね。ウフっ。
健太
俺ちょっとは飲めるけど。今度おねがいしまあす。
忍 少し怒りながら。
ばかたれ、行くよ。なによあんな年増。こんな若い可愛い子連れてるのにデレデレして、全く男ってのは。
15
少し色が浅い画面に切り替わり、雨の中突然車が横切る。激しいブレーキの音、救急車のサイレン。倒れた男の足、散らばる楽譜、ギターケースが飛び中からギターが飛び出す。
16
ギターの前で楽譜を書いている男、毅。松葉杖が玄関に置いてある。
忍
ただいまあ、今だったあ。毅くん これ夕飯、今日は煮魚だった。美味しかったよう。
健太
忍、お父さんだろ、まったく、毅くんって。
忍
だって。この呼び方お母さんがしてたから好きなんだ。
健太
だからって、お前が。
父
良いんだよ健太、忍の寂しさがそれで紛わされれば。笑いながら。
忍
健太、ありがとね、いつも送ってもらって。じゃまた明日。
健太、手を振りながら遠ざかる。
17
帰り道、煌々と灯りがついている前園経理事務所。窓に健太の母、八重子の顔。
見上げながら家路を急ぐ健太。腕時計を見る、7時42分を指している。
机に座って本を読む健太
玄関が開いて八重子が帰ってくる。
八重子
ただいま
健太
おかえり、母さん。
八重子
今日もさっちゃんとこで夕飯ご馳走になったの?悪いねえ、いつもいつも。
今の時期お母さんの会社は忙しくてなかなか定時に帰れないから、すまないねえ、あんたも忍ちゃんちにも。
健太
うん、そうだよね、でもありがたく頂きました、笑う。
八重子
今度の休み、忍ちゃんちの人たち呼んできて、焼肉、ご馳走しよう。
健太
良いねえ、笑う
18
居酒屋イサム
客A
だからかあ、ここの料理はその辺の居酒屋のとは全然違うと思ってたよ。「燦」で働いてたのか。
客B
「燦」って和食の老舗旅館だよなあ、どうりでね。
客A
お前にはわからんよ。だって焼酎のんでるだけだからなあ。(笑)
まさこ、カウンターのお客に笑う。
調理場にある時計が8時50分を指している。時計を何度も見ては店の戸口を見る祥
それに気づき、まさこが勇に笑いかける。
純、引き戸を開けて入ってくる。
純
こんばんわ。
祥
いらっしゃあい。(弾けるように笑顔がほころぶ)ビールと、はい突き出し。
祥
純さん、明日、鹿児島に映画見に行かない?
純 ビールと突き出しを口に運びながら、
明日はちょっと。
祥
え?
純
死んだ女房の命日なんだ。お墓に行こうかと。毅も一緒に行ってくれるっていうから。嬉しいよね。友達ってのは。
祥
あ、そうだったね。ごめんなさい。昔のバンド仲間は健在ですね(笑)、私も行こうかな。
純
良いよ良いよ、さっちゃんには関係ないことだし、誰か誘って、映画観てきたら?おじさんたちは抹香臭いお墓詣りをしてきます(笑)
祥
うん、そうする。(素っ気なく言う)
勇
純さんいらっしゃい。さっちゃんあれ出してあげたら?
まさこ
そうだねえ、さっちゃんがうちのに教えてもらって初めて作った煮物。
祥
そんな恥ずかしい。
まさこ
あの味出せたら、もういつでもお嫁に行けるよ。ねえ純さん?
純
ああ、そうですよねえ。早くお嫁さん姿を見たいですねえ。
まさこ 小声で
まったくこの男は鈍いんだかバカなんだか。
勇
お前は、男心がわかってないんだ、大事に思えばこそ、抑えてるのさ、恋心を
まさこ
あんたの口から恋心なんて言葉が出てくるとは思わなかった、歳も随分違うし、純さん、一回結婚して奥さんに死なれてるし、さっちゃんはあんなことがあったし、すんなりとはいかないのかねえ
5年前
19
指宿市内 観光ホテル「燦」
フロントから入った裏口
権藤
( 営業への出がけに祥の手を触り、)さっちゃん今日いいだろ。飲み。
祥
え、今日は遅番なんです、何時になるかわからないです。
権藤
じゃ、待ってるよ、駅前のクロスね。和風の。
祥
あんな人目につくとこ大丈夫なんですか。
権藤
大丈夫大丈夫、大胆にして繊細なこの僕だから、にっこり笑う。
祥も笑い返す。
20
深夜2時ホテルから出てくる権藤と祥。「燦」の割烹で働いているまさこが車で通りかかり驚いて見る。二人は気がつかない。
21
ホテルの給湯室、お茶をお客様に運ぼうと入り、突然吐き気を催す祥。
ラウンジに入ってくる純42歳、何気なく給湯室の前を通りかかり、毅の親友で、昔のバンド仲間、その娘祥が吐いているのを見る。
22
深夜零時遅番で帰る祥、片側車線を走る車の助手席に同じホテルで働く真弓を乗せて運転する権藤とすれ違う。驚く祥、
23
souvenir shopで客の土産物を取りにいく祥は権藤とすれ違いざま、
祥
夕べ真弓さんといましたね。権藤ふてくされながら、シラをきる。
権藤
何が?お前こそあんな夜中に誰と一緒に居たんだよ。
今夜、な?と言う権藤を無視して去る祥。
権藤
おい、手をつかもうとする権藤にぶつかる純、
純
あ、権藤さんすみません。
権藤
ピアノ弾きか。ふん。
祥
純さんすみません、なんでもないですから。父には内緒で。
笑顔で返す純。
24
祥と権藤、バーで飲みながら権藤が妻の不満を話している。
権藤
酷いだろ、あんなの女じゃないよ。気ばっかり強くって。だから、さっちゃんと一緒になりたいんだ。俺と結婚しよ、いいだろ。
祥
でも奥様がいらっしゃるのに私、申し訳ないと思ってて、もうこんな関係はやめた方がいいと今日は言いに来たんです。
権藤
さっちゃん、何言ってるの、僕のこと嫌いになったの?愛してるんだ、俺。
うちのだって、男がいるみたいなんだよ。だから、もう別れるんだ、俺たち。良いんだよ。
祥
そういうことではなく、良くないことだと。
権藤
ああ、そうか。さっちゃん、好きな男ができたんだ。なんでもするからさ俺。ね結婚しよ。だから今から海月に行っていろいろ話し合おうよ。
祥
本当に今までありがとうございました。
店から走り去る祥。
25
数日後、血相を変えて会社を出て行く権藤。
祥
(職場の同僚内藤に)どうしたんですか、と尋ねる。
内藤
あのバカ、不倫がばれて奥さん、自殺未遂したんだって、病院から電話。真弓と出来てて、ばれたんだって、随分大胆だよなあ、こんな狭い街で。真弓と結婚するって言ってたけど他にも女がいたらしい、背が高くてかっこいいからもてるんだろうけどそれを信じる女はいないと思うけど(笑う内藤。)信じるのはよほど頭の弱い女だな。
26
「燦」の廊下
まさこ
さっちゃんちょっと。
祥
はい。
まさこ
この前夜中2人で出てくるとこ見ちゃったんだけど。あんた大丈夫?つわりなんじゃない?
祥
え、まさこさん。
まさこ
権藤には言ったの?悪いやつなのよ。うちの亭主の勇も言ってたけど、会社の女の子何人かと付き合ってるんだって、そろそろばれてクビでしょうね。奥さんも出て行くと思う。ここの先代会長が仲人したから、奥様の両親に会わせる顔がないもの。
血の気が失せる祥、
祥
廊下を歩きながらモノローグ
誰にも知られてないと思っていた。まさこに知られていた、権藤さんの奥様にも知られてたのか。
でも別れるから一緒になろうと言われていた。まさか。私はバカだった、騙されてたんだ。不倫。秘密にしないか?燃えるよ、普通の恋じゃないから、と言われて抱かれた。燃えた、バカ。私はバカだ。
27
2日後、祥は真っ青になって、ラウンジでピアノを弾いている純のところに来た。純の顔を見るなり倒れこむ祥。純、驚いて祥を受け止める、着物の裾から出血。純は祥を抱きかかえると、ホテル前に止まっているタクシーに乗りそのまま病院へ。
28
祥は妊娠していた。流産。病院に純に父親だと言って欲しいと言う祥。
頷く純。
祥の家。怒りで真っ赤になり、その後悲しそうにうつむく毅。相手の名前を頑として言わない祥。
5年後 居酒屋イサム
29
勇
まさこ、さっちゃん、そろそろ終わろうか?
まさこ
そうだね。あ、今日、お給料日、はい、さっちゃん少ないけど。
祥
ありがとうございます。忍と健太が夕飯ご馳走になってるのに。
勇
良いんだよう、さっちゃんのおかげでお客さんも増えたしね。女手ひとつで一家を支えてるんだもん、偉いよねえ。
祥
そんなあ、ありがとうございます。じゃあ、失礼します。純さん、帰ろうか。
純
そうだね、お勘定。
30
店を出て歩く2人
祥
冷えると思ったらお月様が綺麗ね。星もあんなにくっきり。
純
本当だ
純、祥に上着を渡す
祥
ありがとう。
純
こんな親父と夜中歩いてると嫁入り前の可愛いお嬢さんに良い男が寄り付かなくなっちゃうな。
祥 、純のスーツの裾を少し掴む
別に、もう今更。純さんとこうして歩く時が一番嬉しい。(小声でつぶやく)
純
え、何?
祥
なんでもない。
31
家の前まで来ると誰かが立っている。以前祥と付き合っていた権藤。
権藤
おい、祥の 手を掴もうとする。かなり酔っている。
権藤
「この盗人があ、」罵る権藤。
祥をかばう純。殴りかかる権藤、純、殴られて、道路に倒れる、
抱き起こし介抱する祥。
権藤
俺はな、クビになるし、嫁は出て行くし、。だからさあ、お前、俺と。祥に近づいていく
純
権藤さんやめてください。祥を庇って前に出る純。
権藤
どけ、
純をつき倒そうとする権藤。
権藤
あばずれがあ、言った瞬間、権藤の顔を殴る純、いつもは冷静で穏やかな純の一面に驚く祥。
しかし、ピアノ弾きの華奢な手は喧嘩もしたことがないのですぐ劣勢になる。華奢な純の手のアップ、細くて白い。それでも大柄な権藤に果敢に殴りかかる、
権藤
へっ、お前そろそろ50だろ、みっともねえなあ。こんな若い女に手を出して。恥ずかしくないのかよ。言いながら蹴りつける
祥
やめてください。純さんはそんな人じゃない。
権藤
じじいが幾ら頑張ってもその女はあんたには振り向かないよ。俺が仕込んだからなあ(下品に笑う)
飛びかかる純を蹴り倒す。また起き上がり権藤に飛びかかるが、何度も何度も殴られ踏みつけられ、権藤は落ちていたブロックの破片を動けなくなった純の右手を潰そうと、振り上げた。祥は恐怖のあまり、すくんで動けない。純はもがくが権藤の足はしっかり押さえつけている、もうだめかと目を閉じかけた瞬間、激しい叫び声とともにいつ来たのか、健太が権藤に体当たりしていた。権藤は咄嗟に周りを見回したが自分を倒したのが少年と見て、捕まえにかかったが権藤は酔っているので素早い動きの健太はなかなか捕まえられない。少年は権藤が捕まえに来るのを後ろに回ると思いっきり背中を蹴飛ばす。前のめりに倒れる権藤。倒れている権藤の顔を蹴りつける少年。次第に動けなくなる権藤。サイレン。
忍
健太、こっち、松葉杖の毅と共に忍。健太、忍の家に駆け込む。
警官が駆けつけ権藤をおこし、純に手錠。暗がりから出てきた近所のおばさん美佐江が美佐江
電話したのはわたし、こいつ(権藤)がこの2人に絡んでたから呼んだんだよ。この人は何も悪くないよ。
32
その晩、謝る祥、
祥
ごめんなさい、私がバカだったばかりにあなたまでひどい目に合わせて。
純
いや、(ぼくなんかでも)いてよかった。役に立たなかったけど(笑)。健太、強かったなあ、おとなしい子だと思ってたけど。
健太頭を掻きながら、
どうして良いかわからなくて、自然に
祥
みんな、ありがとう。本当に、(泣きながら)
健太
じゃあ俺はこれで。(2人玄関から出る。)
忍
ありがとう、今夜は。健太。
外に出て忍、健太の手を握る。見つめあう2人。
忍、健太の顔を手で挟み口付ける。
無言の2人。どちらからともなく笑う。
忍
健太、大好き。
健太
無言で微笑む。なんか有ったらまた電話くれ。すぐ飛んでくるよ。
忍
うん、ありがとう。
健太
じゃ、明日な。
自転車で遠ざかる健太、いつまでも見送る忍。
第4章 青い樹々の項
健太と忍
33
指宿高校の正門をクラスメートとくぐる健太。校庭には学生服と制服の高校生たち。
34
忍の家で父毅がカラオケの採譜をしている、その横で会話。
忍
健太、学校が別だからって 浮気しないでね。したら私泣くから
健太
お前こそ。
忍
私は健太一筋。笑う
健太
俺は忍が泣くようなことはしない、絶対しない。
35
ハイビスカスロードを自転車で走る健太、忍。
砂の道を歩く二人、笑顔。カメラ2人を回る。忍のアップ
36
2年後
夜、机。受験勉強している健太。東京の父からの手紙を読んでいる。
「健太、がんばってるかな、私たちのせいで君には随分辛い思いをさせていると思う。君の母さんとはちょっとした心のすれ違いで別れてしまい、本当に申し訳ないと思っている。金銭面でも苦労させていると思う。何も親らしい事が出来ずここまで来てしまったが、なんとか大学だけは私が出して社会に送り出したい、どうかお願いだ。私に父親らしい事をさせて欲しい。」
健太、手紙を八重子に見せる。
八重子
なに、今頃言ってるの。冗談じゃない。ここまで頑張ってきたんだ。もう一踏ん張り、お母さんが頑張るから学費くらい、なんとかするよ。心配しないで。
健太、心配そうに八重子を見る。
36
夜中布団の中で考えている八重子、起き出して、健太の手紙を読み返す。
若い頃の自分と健太の父と健太と3人で歩くシーン。目に涙
37
翌朝、
八重子
健太、松崎さんに、あんたのお父さんに、お世話になりますって手紙を書きなさい。
健太
本当?お母さん、良いの?
八重子
良いよ、お父さんも、あなたに何かしてあげたいんでしょ。
驚き喜ぶ健太。
38
忍
お姉ちゃん、毅くん、決まった。指宿駅の観光案内所。観光協会の職員になれた。
祥
しーちゃん、おめでとう。
忍
それでさ、ピアノだけど純さんが空いてる時間に時々、教えてもらうことにしたんだ。
祥
良かったねえ。お父さんも復活するかもねえ。
毅
そうだな、一緒にやるかあ、笑う。
しーちゃん、すまんな、お父さんが甲斐性がなくて、本当は音大に行きたかったんだよなあ。
忍
全然だよ。お父さん、大丈夫。それに家には上原毅って往年の名ギタリストだっているし。
毅
往年の、だもんなあ。力なく笑う。
全員微笑む。
39
ホテル「燦」のラウンジ
Left alone.を弾いている純。
熱心に鍵盤を見つめている忍。
40
数ヶ月後 4月
知林ヶ島を見下ろす魚見岳に桜が咲いている。
侑と健太
41
東京
大学に入学した健太は環境研究サークルに入った。
環境研究会の看板の部屋
サークル仲間が会議を開いている。
先輩が、海流の流れを話し、指宿の知林ヶ島についてスライドを流して美しい島だと説明している。
柏木
中村、この島お前の街にあるんだろう。凄く綺麗な島で、島の周りもたくさんの魚が棲んでるんだ。ちょっと、説明してくれ。
健太
はあ、実はあまり良く知らないんです。ただ、その島に砂の道が1日に一回だけできて陸地と繋がるのが有名で、観光客がたくさん来るんです。理由は、珍しいってのもあるんですけど、その道を一度歩いた人々は別れても、また巡り会えるって言い伝えがあるからなんです。
智子
なんか、ロマンチックなとこね。
西原
面白そうだな、中村、いろいろ調べてくれよ。次の学祭の発表はこれで行こうか?
全員、そうだな。賛成。
42
健太、知林ヶ島の事を調べようと渋谷駅東口から南口の本屋に歩く健太。
南口のJR階段を登ろうとする大学生の一団。登ろうとして、足が止まり東口から歩いてくる健太を見つめる女子大生。
侑
健太くうん、手を振る侑。
健太、逆光で見えない。近づくと侑と仲間の学生たち。ジロジロ見ている。
侑
彼、鹿児島の中学で一緒だった健太くん。私の初恋の人
仲間たち、ヒュー、それは凄い。誰にも振り向かない侑が?
侑
子どもの頃の話よ。笑う。こっちの大学に来たのね。やっぱり理系に進んだ?
健太
うん、他にできないし。
侑
みんな先に行ってて。また明日。
健太
良いのか?
侑
うん全然、クラスメート。
久しぶりに会う侑は垢抜けて、一段と綺麗になっている。
侑
健太くん、お茶でも飲もうよ。
健太
子どもの頃に戻って(笑う。)
渋谷の雑踏が映る。
43
忍
JR指宿駅構内の観光案内所で元気よく観光客に応対する忍。案内所に貼ってある大きな砂の道のポスター。健太と行った日のことが思い出される。
44
侑走ってくる
待った?
健太
いや、さっき来たとこ。
健太と侑
レストランで食事をしている。笑う侑、
侑
健太、そう言えば彼女元気?忍ちゃん。
健太
ああ、元気しか取り柄がないからね。笑う。
侑
良いなあ、忍ちゃん。優しい彼氏とお笹馴染みで。
健太
まあ、長いね。侑ちゃんみたいに綺麗だと、もてまくるんじゃないの?
侑
そんなことない。なんだか、よくわからないけど。好きな人ができなくて付き合ったこともない。良いなと思う人がいたら、可愛い彼女がいて。わらう。
健太
ふうん、そういうもんかなあ。
侑
健太君のアパートはどこ?
健太
神泉。学生アパート、やっすううい部屋だよ。
侑
今度、行ってみたいな。
健太
汚い学生街だよ。
侑
今度ね。ご飯作ってあげる。
2人で笑う
JR渋谷駅まで侑を送る健太。電車が走りすぎる。
45
忍
案内所に観光協会の竹下局長が入ってくる。
竹下
忍ちゃん、今度観光協会で砂の道の愛称募集をすることになったがよ。
忍
愛称募集って?何ですか?
竹下
知林ヶ島の砂の道は、愛し合う二人が砂の道を歩いて渡ったら別れてもまた巡り会える愛の道だって昔から言うだろう?。それで知林ヶ島の砂の道をもっと多くの人に知ってもらうためにあの道にニックネームをつけようってことになったんだよ。忍ちゃん、担当窓口になってくれないかな。
忍
ええ?良いですねえ。私、あの砂の道大好きなんです。ちょっと思い出もあるし。
竹下
ええ?何、思い出があるの?どんな?っておじさんは聞いちゃいけないな。
それでね、ポスターやチラシ作って募集活動したいんだよ。実行委員会作るから準備をたのむ。
忍
はい、一生懸命やらせて頂きます。笑顔
46
東京の雑踏
侑が歩いている。少し離れたタクシー乗り場、父と綺麗な女性が買い物の荷物をまるで夫婦のように仲良く積みながら乗車している、驚く侑。
47
夜、祥と買い物帰りの忍
祥
忍ちゃん、良かったねえ。あなたにぴったりの仕事じゃない。健太君との思い出の場所だし。
忍
うん。砂の道の可愛い愛称が来るといいなあ。笑いながら、夜空を仰ぎ見るカメラが夜空を仰いで行く。
夜空をバックにメールの文字
忍から健太へメール
健太、あの砂の道の愛称を募集することになったよ(^O^)、わたしは窓口担当になった。いろいろわからないことが多そうだから手伝ってね。理科の秀才君へm(_ _)m
健太から忍へメール
思い出の場所だな。俺も環境サークルで知林ヶ島と砂の道の事、調べてるんだ。砂の道だけじゃなくて知林ヶ島もなかなか面白い、調べたら資料を送るな*\(^o^)/*
48
空からカメラが降りてくる。東京の夜景。
健太バイト先を辞去する、
お先失礼しまああす。
電車内の健太。
忍からメール
健太資料ありがとう。知林ヶ島も砂の道も凄いとこなんだね(*^^*)驚きです
健太から忍にメール
世界でも珍しいらしい。*\(^o^)/*また調べて送るね。
49
侑の家、時計は9時
加奈子
なかなか3人揃わないけど、今夜はちょうど良かった、あなた、晋さんって覚えてる。
真治
確か大学で一緒で、お前と付き合ってた男だったな。
加奈子
そう、私の恋人だった人。ちょっとしたことで喧嘩して別れてしまった。
驚く侑
加奈子
私、ここ数年、彼を探してたの。
展示会に出品してたモンゴル砂漠の写真と名前がネットに出てて、すぐわかった。それで連絡取ったら、まだ結婚してなくて、私を探してたって。
無言の真治と侑
加奈子
でもね。彼今、ホスピスにいるの。膵臓癌で余命10ヶ月だって。私と会えるかも知れないと甲府の。彼とその10ヶ月を一緒に夫婦として過ごしたいの。
侑、真治さん、はっきり言うわ。最愛の人と最後に暮らさせてください。
真治
無言。
真治さん、あなたはあの由美子さんとなかよくやってください。私は早くから知ってたの。同じ大学の後輩で会社の部下、やりてで頭が良くてあなたが連れまわしているうちに愛し合うようになって今では夫婦同然だそうね。良かったじゃない。私はそれを知ってから、この7年間地獄を味わった。夜中いつ帰ってくるかわからないあなたのために食事を作り侑の面倒を見て、家事をし、なんの喜びもなかった。侑と一緒の時間だけが救いだったけど、この子も大人になって私の手を離れ、巣立って行く。私はすがるように小佐野晋の名前を探した。私はやっともとの加奈子に、木下加奈子にもどれた。
侑
お父さんがそとに女がいることは私も偶然しって、いろいろ調べた。ひどい男だと思った。絶対こういう男は許せない、選ぶまい、と思った。頭がよくて、有名な大学を出て、仕事ができても、お金があっても、家族さへ幸せにできない、結局誰も愛さないし愛せない、その時その時の自分の思いで、選ぶ女が変わっていくだけ。絶対に私は許さない。お母さんが気付く前に私はこの家が壊れていくのを感じてた。お母さんの気持ちはわかるけど、不潔だと思う、昔の男の思い出にすがって、探してたなんて気味が悪い、自分を正当化しないでよ、ばばあが夫に捨てられそうになったからって、ほかに男を作れないからって昔の思い出にすがって、死んでいく恋人と過ごすなんて虫のいい綺麗事を言わないでよ。そんなあんたたちの娘だからわたしもきっとろくなもんじゃない。でも私はもう一人で生きていく。お金はもらう、これから私が歩いていく元を。(泣きながら、)もう出ていく。
侑、自室へ。
呆然とする真治
加奈子 侑の背中に向かって話す
侑、あなたの言う通り、その通りよ。私はあなただけには申し訳ないと思ってる、愛してます。ずっと。涙を拭う加奈子。
真治の顔。アップ
真治
私も懸命に働いてきたんだ、一日中働いて働いて、そんな時お前はどうだった、冷たい女だと思ってた。労いの言葉をかけるでなく、いつ不満を言うだけの妻、愛情のかけらも無かった。そりゃそうだろうな。お前の心の中にずっと晋の影がいたんだからな。好きにすればいいさ。
ドアを開けて出て行く加奈子。ドアが大きな音を立てて閉まる。
自室から出てきた侑、身支度を整えている。
父、真治
娘が出て行くのを茫然と見送る。
50
神泉に電車は滑り込む。
時計は午後10時を指している。
電車から降りて歩き始める健太。ベンチにいる侑。
健太
侑ちゃん、どうしたのこんなところで。
侑
家を出てきた。
健太
え?なんだって?
侑
私の家は壊れちゃった。みんな勝手なことして、もう終わり。
健太さんの部屋につれてって。
健太
え、?少し無言。ご飯は?
侑
まだ
健太
じゃそこの定食屋でいいかな
侑
うん
定食屋に入る健太と侑
食事に手をつけず無言。
父に長く女がいたこと、それに耐えられなくなった母が昔の恋人の元へ去ること。自分の居場所が一度に消えたことへの恐怖と寂しさを語る侑。
映像で説明。
51
健太の部屋
生真面目な顔の健太、正座している侑。
無言の2人。
侑
健太くん、私は大学を辞めて、アメリカに行く。そして、やりたかった事をアメリカの商社に入って、仕事を思いっきりやりたい。あすは、ロスに発つ。その前に、1日で良いから健太くんと過ごしたいの。まだ男の子と付き合ったこともない、南中で会った健太くんの印象が強すぎて。
抱いて、健太くん。今夜だけ、‥‥‥忍さんを忘れて。
無言の健太
服を脱ぐ侑
侑を抱きしめる健太
52
窓が明るくなり電車の行き交う音が聞こえる。
侑
健太さん、ありがとう。笑顔の侑。
2人、部屋を出て駅に向かう、
53
灯を点けない健太の部屋。忍の写メを見ながら焼酎利右衛門を飲む健太。
健太 部屋にうずくまっている。足を抱いて頭を抱えて座っている。
指宿を出るときの忍の笑顔がけせない。映像と声。
54
観光協会
忍
松下さん、募集内容をまとめてみました。書類を出す。
松下 原稿を読みながら、
ありがとうございます。なるほど、こんなかんじですね。
忍
はい、写真は知林ヶ島はもちろん入れたいですけど、もう少しなにか、愛情を表すような、何かが欲しいんです。
松下
と言うと、どんな?
忍
永遠の愛情。家族でも、恋人でも、夫婦でも信じあい、決して離れない絆を表す何かが欲しいです。
松下
わかりました。考えてきます。
55
部屋から忍に電話する健太。
健太
忍、俺、お前を裏切った、絶対泣かさない、お前を守ると誓った俺はもう、その資格が無い。お前はお前にふさわしい誰かと生きて行ってくれ。本当にお前の事が好きだった。
忍
健太、何、何言ってるの、何があったの。泣き出す。
その場に崩れ落ちる。砂の道が大きく画面に映る、夕暮れの道は赤く染まりながら、静かに海へ還っていく。
バックに流れるLeft alone 1人残されて。
56 沈んでいる忍を訝しみ、健太に電話する祥。
祥
健太、一体何が有ったの?
健太
忍を裏切ったんです。俺にはもう忍を愛する資格がない。
祥
裏切ったって、何が有ったの?忍はきっと許すよ、何が有っても
健太を信じているのよ。小さな頃からあなたたちはお互いを信じて生きて来たじゃない。あなたたちを見てて、私もどれだけ励まされたか、どれだけ勇気をもらったか、わからないくらい。
健太
無言。
祥
だめよ、別れちゃ。あなたたち、きっと幸せになれるから、ね、健太。
健太 電話を切る。健太のアップ
57
協会、以前健太から送られてきた砂の道についての資料を広げている。
熱心にPCを打つ忍。
58
老人会や、小学校で愛称募集について話す。
笑顔が眩しいくらいに輝いている。
全て映像。
59 8月、忍、デザイナー松下と議論している。
忍
だから、心と心が結ばれ会う、絆や、時間を入れたいんです。
松下
具体的にはどんなイメージですか?
忍
子どもか、恋人か男女、か。家族は人数が多すぎて象徴になりにくいですよね。
松下
そうですね。では子ども、恋人のイメージ写真を撮影しましょう。
その上でもう少し練ってみます。ところで上原さん、今度食事にでも行きませんか?なんか、若い女性が鬼のように仕事にのめり込んでるから、少しリラックスしたほうが良いかなと思って。
忍
嬉しい。是非行きたいです。
60
フェニーチェ、料理が運ばれてくる。
バックに流れるLeft alone 1人残されて。
忍
やっぱり松下さんは大人だなあ。こんなとこ、初めてですよ。良く来るんですか。彼女とか連れて。
松下
いやあ、全然もてないからお一人様で、贅沢したい時ワインを飲みに来るんですよ。
忍
松下さんって失恋とか恋人に裏切られた事ってあります?
松下
若い女性から鋭い質問ですねえ。そりゃあ、この年だから、少ない経験ながらありますよ。
忍
そんな時どうやって悲しみを乗り越えましたか?
松下
そうねえ、ひたすら仕事をしました。何もかも忘れる様に。それと新しい恋人にめぐり合うことです。仕事でも何でも夢中でやってたら、ある日神様が素敵な誰かと会わせてくれるんですよ。
忍
ふうん、そうなんですか。新しい誰かじゃなくて、信じてた人にまた会いたい時は?
松下
どんな事があってもその人を待ち続ける事ですね。それこそ、砂の道が会わせてくれますよ。
忍
砂の道でポスターの写真撮影しましょう。それをどんと真ん中に載せたデザイン見せてくださいますか?
61 9月
家に持ち帰り、愛称募集の資料に目を通す忍
祥
仕事、一生懸命だね。
忍
少し無言。私、あの言い伝え、信じてみたいの。いつかまた、笑って健太と会える日が来たらいいなって。松下さんが信じて待ってみたらって。
バックに流れるLeft alone 1人残されて。
祥 優しく笑いながら
そうだね、言い伝えは本当だよきっと。たくさんの人にそれを伝えなくちゃ。
何より、健太にメッセージを送ることだよ。私も手伝う、恩返し、2人で笑う。
第5章 命の項
62
10月、砂の道で子ども、恋人のイメージ写真を撮っている松下、カメラマン、忍、モデルたち。忍の携帯が無音で震える、気がつかない。鳴り続ける携帯。忍、やっと気が付き、撮影から離れて携帯を耳に当てる。
63
美佐江
忍ちゃん、前にさっちゃんたちに因縁ふっかけてきた男が、あんたたちの家の前をウロウロしてるよ。さっちゃんの電話が出ないんだよ。警察に言った方がいいかねえ。
忍
ありがとうございます。私、今からすぐ帰ります。警察に電話お願いします。
美佐江
わかった、気をつけてね。
忍、電話を切ってすぐ、祥と純に電話する、電話がつながらない。毅に電話する。
忍
毅くん、今どこにいるの
毅
今、鹿児島だ、何かあったのか。
忍
権藤が家の前をうろついてるって美佐江さんが教えてくれたの。
毅
わかった。お前も帰るな。わかったな
64
忍、何回も祥と純に電話するが出ないので、タクシーを呼んで家に向かう。
けたたましいサイレンが鳴り響き、パトカーが家に急行している。
65
忍はパトカーより早く家に着き、まわりを見回しながら家に近づく。
隠れていた権藤がいきなり忍に切りつけ、肩口に包丁が刺さり倒れる。立ち上がろうとする忍の腹部を深く抉るように包丁が貫く。忍悲鳴。
忍
健太ーー。
そこへ祥と純が帰り着く。純が立てかけてあった棒で権藤を威嚇する。権藤と純が格闘になる。パトカー到着。警官が取り巻き、権藤を確保する。純は権藤の包丁で肩や腕を数箇所切られ血だらけ。
家の裏口に倒れている忍を発見する祥、悲鳴。
66
救急車が走る。病院。タンカから、移送用のベッドに乗せられ手術室。
酸素マスク、点滴。
祥 健太に電話する。数回鳴らして出ない、なおも鳴らし続ける祥。
健太
祥からの電話に気づくが、見つめたまま、出ない。長い間そのままにしている。一回めが鳴り止み、またも長く鳴り続ける。
健太 決心して電話に出る。
はい
祥 泣きながらなのでほとんど言葉にならない
健太、忍が刺された。包丁で。私のせいで。すぐ帰って来て。
健太 叫ぶ
なんです、何故忍が。
67
そのまま、羽田にむかう。
駅からタクシー、病院に着くまで必死に走る健太。
68
テレビ局や新聞記者が駆けつけている。
手術室前で泣きながら待機している祥、包帯でぐるぐる巻きの純。泣いている毅。
美佐江、他観光協会の人々。
純
健太、今日の昼刺されて、ずっと手術が続いてる。まだ医師も出てこない。肩と腹部を刺されている、
祥 大声で泣き叫ぶのを必死に口にハンカチを当てて堪えている。
健太、ごめん、こんなことになって、全部私のせい。
健太 祥の手を握る
俺がもっとしっかりしていれば、守るって言って、守れなかった。
医師がマスクを外しながら手術室から出てくる。
みんなの前にくる。
医師
手は尽くしました。今夜が山です。非常にあぶない状態です。出血多量と肺の近くにまで刃が達していましたから、内臓の損傷も激しい。どうかみなさんで見守ってください。我々も全力を尽くします。
69
個室の集中治療室
人工心肺が騒々しい。心電計に緩やかに不規則な波が流れている。
医師、看護師数人が見守っている。忍の手を握っている祥。その隣でその手をさすっている健太。
心電計の波形が突然ゼロを指す。ピーと言う甲高い音。騒然となる家族と健太。
医師が指示し、AEDを忍に当てる。看護師が下がってくださいと言い、全員下がる。
何度もAEDで跳ね上がる忍のからだ。
医師が首を横に振る。死亡時刻を告げる。泣き叫ぶ祥。毅。
医師と看護士が部屋を出て行く。祥、忍に取りすがる、純が優しく抱いて外に連れ出す。
病室に残された忍と健太。涙をぼろぼろこぼす健太。忍を抱きしめる、強く強く抱きしめる。頭をかき抱き、強く強く抱きしめる。痛みに流したのだろう、涙で汚れた顔を撫でながら健太が呟く、痛かったな、忍、そばにいてあげられなくてごめんな。
顔を撫でる健太。じっと顔を見つめて、唇に触れる。抱きしめながらそっと忍の唇に口付ける。長く長く長く。どのくらいの間かわからない、今までの映像が流れる、小さかった頃から、中学生、高校生、2人の思い出が映像になり、優しい音楽に包まれて行く。音楽が突然鳴り止み、切り裂くように、ピーピーという警告音。健太はまだ気づかない。医師と看護士が飛び込んでくる。心電計にしっかりした波形が戻っている。医師と看護師が驚く。まだ忍を抱きしめている健太。
医師
きみ。良くやった。まるで白雪姫の王子様だ。
泣き始める看護師。
飛び込んでくる祥、純、毅。
70
4月
魚見岳の桜の花が知林ヶ島と砂の道にかすんでいる。
忍の病室
忍
健太、ありがとう。ずっと眠ってたから気づかなかった。健太が助けてくれたんだね。
もう私は大丈夫だから、新しい人のところに行って良いよ。
健太
もう良いんだ。おれはずっとお前のそばにいるんだ。お前が嫌だって言ってもな。
忍
え、私、また健太と一緒に居られるの。
健太
もうすぐ卒業だから、こっちに帰ってくる。
そしたら、一生一緒にいてくれるかい?
忍
え、それってもしかして。
健太
そう、おれのお嫁さんになってくれるかい?ごめんな、ずっとほったらかしにして。
健太、桜貝の指輪を忍の指にはめる。
忍
健太あ。泣きながら抱きつこうとするが痛くて諦める、笑う。
病室のドアが開き、祥と純が入ってくる。
純
あ、邪魔だったかな 全員笑う
71
病室に入る松下
松下
忍ちゃん、ほら。後ろに隠してたポスターを見せる。恋人、子ども、夫婦、写真がちりばめられて、砂の道の道が入っている。
忍
わあ、できたんですね。良いなあ、イメージぴったりです。松下さんありがとうございます。
松下
これで募集かけてるんだけど凄く評判になって電話は鳴りっぱなし、ハガキは毎日山のように来てる。
忍さんが退院する頃には愛称が決まってるよ。早く良くなって立ち会わなくちゃね。
忍
はい、がんばって出てきます。笑う
第6章 永遠の砂の道の項
72
4月 桜が咲いている。愛称募集のセレモニー、
忍が協会長に賞状と記念品を手渡し、愛称が選ばれた人に協会長が渡し、全員が拍手する。忍の笑顔アップ。観客の中で手を叩く健太。2人、目を合わせて微笑む。
73
春から夏に向かおうとしていて砂の道が出来始めている。
砂の道
砂の道に勢ぞろいしている友人、祥、八重子、美佐江
バックに純と毅のバンドが忍の作った砂の道を演奏している。
晴れやかな曲調で、忍が砂の道のバージンロードを健太と歩く。
健太アップ。
健太微笑みながら忍を見つめる
この道を二人で………歩いて行こう。ずっと一緒だ、忍。
忍アップ
うなずく忍、輝く笑顔。
上から引きで砂の道、二人が砂の道を歩いていく。
終
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