映画「砂の道」
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救急車が走る。病院。タンカから、移送用のベッドに乗せられ手術室。
酸素マスク、点滴。
祥 健太に電話する。数回鳴らして出ない、なおも鳴らし続ける祥。
健太
祥からの電話に気づくが、見つめたまま、出ない。長い間そのままにしている。一回めが鳴り止み、またも長く鳴り続ける。
健太 決心して電話に出る。
はい
祥 泣きながらなのでほとんど言葉にならない
健太、忍が刺された。包丁で。私のせいで。すぐ帰って来て。
健太 叫ぶ
なんです、何故忍が。
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そのまま、羽田にむかう。
駅からタクシー、病院に着くまで必死に走る健太。
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テレビ局や新聞記者が駆けつけている。
手術室前で泣きながら待機している祥、包帯でぐるぐる巻きの純。泣いている毅。
美佐江、他観光協会の人々。
純
健太、今日の昼刺されて、ずっと手術が続いてる。まだ医師も出てこない。肩と腹部を刺されている、
祥 大声で泣き叫ぶのを必死に口にハンカチを当てて堪えている。
健太、ごめん、こんなことになって、全部私のせい。
健太 祥の手を握る
俺がもっとしっかりしていれば、守るって言って、守れなかった。
医師がマスクを外しながら手術室から出てくる。
みんなの前にくる。
医師
手は尽くしました。今夜が山です。非常にあぶない状態です。出血多量と肺の近くにまで刃が達していましたから、内臓の損傷も激しい。どうかみなさんで見守ってください。我々も全力を尽くします。
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個室の集中治療室
人工心肺が騒々しい。心電計に緩やかに不規則な波が流れている。
医師、看護師数人が見守っている。忍の手を握っている祥。その隣でその手をさすっている健太。
心電計の波形が突然ゼロを指す。ピーと言う甲高い音。騒然となる家族と健太。
医師が指示し、AEDを忍に当てる。看護師が下がってくださいと言い、全員下がる。
何度もAEDで跳ね上がる忍のからだ。
医師が首を横に振る。死亡時刻を告げる。泣き叫ぶ祥。毅。
医師と看護士が部屋を出て行く。祥、忍に取りすがる、純が優しく抱いて外に連れ出す。
病室に残された忍と健太。涙をぼろぼろこぼす健太。忍を抱きしめる、強く強く抱きしめる。頭をかき抱き、強く強く抱きしめる。痛みに流したのだろう、涙で汚れた顔を撫でながら健太が呟く、痛かったな、忍、そばにいてあげられなくてごめんな。
顔を撫でる健太。じっと顔を見つめて、唇に触れる。抱きしめながらそっと忍の唇に口付ける。長く長く長く。どのくらいの間かわからない、今までの映像が流れる、小さかった頃から、中学生、高校生、2人の思い出が映像になり、優しい音楽に包まれて行く。音楽が突然鳴り止み、切り裂くように、ピーピーという警告音。健太はまだ気づかない。医師と看護士が飛び込んでくる。心電計にしっかりした波形が戻っている。医師と看護師が驚く。まだ忍を抱きしめている健太。
医師
きみ。良くやった。まるで白雪姫の王子様だ。
泣き始める看護師。
飛び込んでくる祥、純、毅。
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