原作者からの手紙その4
原作・鑑賞の手引き4「靖恵さんは実在?」
小説は「フィクション」です。ヒロイン・新田靖恵(しんでんやすえ)さんは架空の人物です。しかし、実際の出来事が小説のもとになることはよくあります。原作も、長い時間をかけてお聞きしてきたいろいろな「実話」がもとになっています。
靖恵さんにはたくさんのモデルがいらっしゃいます。そのモデルは、皆様の周りにいらっしゃる「普通の」おばあさん達です。
戦後64年目となり、亡くなられた方も多いでしょう。まさに、戦死した夫や恋人の残した子供を必死で育て上げ、笑うことも、楽しむことも、愚痴ることもなく生きてこられた「普通の」女性達こそモデルです。
私は、県の福祉事務所で働いたことがあります。仕事の中で、遺族の皆様のお手伝いもさせていただきました。その仕事で、「強い」(そうならなければならなかった)たくさんの女性達にお会いしました。夫を亡くした方、親や兄弟を亡くした方、子供を亡くした方、我が子を凍てつく大地に埋めてきた方、集落の人々を守るため最後まで銃を放さなかった方・・・
私の母は、当時高等女学校の生徒でした。原作の指宿高等女学校生には、母の面影を重ねました。母は、鹿児島大空襲の夜、日吉町から赤く光る鹿児島市の夜空を見たそうです。そして、行方不明の叔母を探し遺体集積所になっていたデパートの地下などをさまよったそうです。
いろいろな場所で、立場で、境遇で、たくさんの女性達が逞しく戦後を生きてくださった。だからこそ今がある…と思います。
母は、昨年3月、長い闘病生活の末、亡くなりました。母を含め、必死で家族をそして社会を支えてきた、多くの女性達に感謝したいのです。きっと男達は、あなたたちが支えてくれたから、ここまでやってこれたのでしょう。この作品を、全ての「本当の」靖恵さんに、感謝とともにお届けしたいのです。
映画にはない原作の言葉:「その勢いです。頑張ってくださいね。歴史は女達が作るものですからね。殿方は、いつも走って行ってしまうだけですから」
柳田一郎
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