笑顔のターミー
ターミー
ターミーはどこにでもいる普通の人。朝起きて、仕事に行き、お昼になったら昼食を食べて、また仕事をして、仕事が終わったら家に帰ります。顔は普通、かっこよくもなく、それほど不細工でもありません。
背は高くもなく、低くもなく、雑踏の中で探すのはなかなか難しいです。
食べ物は好き嫌いなく、あ、ちょっと人参とピーマンが苦手かな。
片思いですが好きな人もいますが特に付き合いたいとか、も思っていません。夢は人並みにあります。それは優しい女の人と結婚して幸せな家庭を築くこと。
子供は2人、郊外に家を建てて、静かに暮らせたらいいなと思っています。
だけど、ターミーは他の人と違うところが一つだけあります。
それは、いつも、どんな時でも、ニコニコと笑っているところです。
悲しいときも、もしかして怒っているのかなと思える時でも、優しく微笑んでいます。
若い頃好きな人ができて、不器用なターミーはすぐ好きですと言いました。
その女性は少しはっきり言葉を話す人だったので、ターミーに、あなたなんか、お金もないし、カッコよく無いし、将来もなさそうだし、はっきり言って興味もないわ、と言いました。ターミーはやはりいつものようにニコニコ微笑んでいました。
大好きなお母さんが長患いの末に亡くなった時でも、やはりニコニコと微笑んでいました。
会社が倒産して、仕事がなくなり、お金もなくなった時でも、やっぱりニコニコと微笑んでいました。
そんなターミーですから友達はたくさんいました。いつも大勢の人々に囲まれて、楽しそうにしていました。
仕事でもお客様から愛され、会社の中でも人気者でした。
ある女性からは、お付き合いしてくださいと告白までされたこともありました。
でもやっぱりニコニコと微笑むだけで何も言わなかったので彼女は振られたのだと思い、毎日泣いて暮らしました。ターミーの友達が彼女をとても愛してたので、ターミーも好きだったのですが、どうしてもぼくも愛してますと言えなかったのです。
彼女は、その友達とお付き合いして結婚しました。
ターミーは披露宴でいつもよりもっとニコニコ笑い嬉しそうにはしゃぎました。
新婦は、何故か控え室で泣いていました。
ターミーはあるひ、病気になり、激痛に苛まれました。
ターミーはニコニコ笑っていましたが、いつしか気を失ってしまいました。
その時、神様が現れて、悲しかったら悔しかったら泣いても良いんだよ、怒りたかったら怒っても良いんだよ。と良いました。
でもターミーは神様のそんな言葉にもニコニコと笑っているだけ、そんな風にターミーは生きていきました。
ターミーはいつか、みんなが知らない間にいなくなってしまいました。
住んでいた部屋に何もなくなり、仕事場でも行き先もわからないまま突然いなくなってしまいました。
皆、ターミーがいなくなって悲しみました。皆が探しました。メールが飛び交いました。SNSが飛び交いました。でも手がかりは全くつかめませんでした。
誰かが言い始めました。
ニュースで見たと。
レポーターの後ろを歩いていたと。
外国の紛争地域で物売りをしていたと。
国会中継で見たと。
大事故のニュースで倒れていたと。
誰かが言い始めました。ターミーはもしかしたら死んでるんじゃないかと。
するとまた、誰かが言いました。ターミーは死なないよ。死ぬときはこの町に帰ってきて、みんなに挨拶して天国に行くと。
何年間もターミーは見つかりませんでした。
でも、僕はこの前、この町の路地裏の飲み屋でニコニコ笑いながらお酒を飲んでいるターミーにやっと出会えました。最近どうしてるのって聞いたら、いつもの通りさと返って来ました。
優しそうな、温かそうな女の人と仲よく微笑みあって幸せそうでした。
消えてしまいそうなターミーの幸せそうなえがおでした。
ターミーに、今度こそ本当に微笑んでいられるんだねと聞きました。
ターミーは大きくうなづきながら、そうだね、今のところは、と小さな声で言って、やっぱり微笑みました。
それから、実は今日までターミーに会っていません。
もしかしたら、ターミーはもう笑っていないのかも知れません。
だって、ぼくは笑顔のターミー以外の顔を知らないから探しようがないのです。
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