映画「砂の道」
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居酒屋イサム
客A
だからかあ、ここの料理はその辺の居酒屋のとは全然違うと思ってたよ。「燦」で働いてたのか。
客B
「燦」って和食の老舗旅館だよなあ、どうりでね。
客A
お前にはわからんよ。だって焼酎のんでるだけだからなあ。(笑)
まさこ、カウンターのお客に笑う。
調理場にある時計が8時50分を指している。時計を何度も見ては店の戸口を見る祥
それに気づき、まさこが勇に笑いかける。
純、引き戸を開けて入ってくる。
純
こんばんわ。
祥
いらっしゃあい。(弾けるように笑顔がほころぶ)ビールと、はい突き出し。
祥
純さん、明日、鹿児島に映画見に行かない?
純 ビールと突き出しを口に運びながら、
明日はちょっと。
祥
え?
純
死んだ女房の命日なんだ。お墓に行こうかと。毅も一緒に行ってくれるっていうから。嬉しいよね。友達ってのは。
祥
あ、そうだったね。ごめんなさい。昔のバンド仲間は健在ですね(笑)、私も行こうかな。
純
良いよ良いよ、さっちゃんには関係ないことだし、誰か誘って、映画観てきたら?おじさんたちは抹香臭いお墓詣りをしてきます(笑)
祥
うん、そうする。(素っ気なく言う)
勇
純さんいらっしゃい。さっちゃんあれ出してあげたら?
まさこ
そうだねえ、さっちゃんがうちのに教えてもらって初めて作った煮物。
祥
そんな恥ずかしい。
まさこ
あの味出せたら、もういつでもお嫁に行けるよ。ねえ純さん?
純
ああ、そうですよねえ。早くお嫁さん姿を見たいですねえ。
まさこ 小声で
まったくこの男は鈍いんだかバカなんだか。
勇
お前は、男心がわかってないんだ、大事に思えばこそ、抑えてるのさ、恋心を
まさこ
あんたの口から恋心なんて言葉が出てくるとは思わなかった、歳も随分違うし、純さん、一回結婚して奥さんに死なれてるし、さっちゃんはあんなことがあったし、すんなりとはいかないのかねえ
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